サイエンス カフェ

古の知恵とエビデンスその4~ピーカンナッツの殻の研究2

みなさま、
なかなかあけない梅雨、7月の日照不足を感じながら、日本の南海上では台風の発生数が非常に少ないとの報道に異常気象への心配が募ります。身近なところでは、我が家の家庭菜園も打撃を受けています。7月の台風が少ない年は8月9月の台風上陸、災害の可能性が高いとか。なにより天候の回復、そして夏の太陽が恋しい毎日です。みなさま、どうぞご自愛ください。

今日は古の知恵とエビデンスその4として、ピーカンナッツの殻の研究についてもう少し紹介したいと思います。サイエンス・カフェ#16のとおり、ピーカンナッツの殻にはたくさんのポリフェノール類が含まれます。それらポリフェノール類は様々な薬理活性を持っていることが多々報告されています。そんな中で、これは面白い研究だなーと感じたものは、ブラジルはサンタマリア大学のLiz Girardi Müller先生のHepatoprotective effects of pecan nut shells on ethanol-induced liver damage.(Exp Toxicol Pathol. 2013 Jan;65(1-2):165-71.)です。
この研究では、最初に、ラットにエタノールで肝障害を起こします。すると、γ-GTPがなんと5倍近くに上昇します。他の肝臓のパラメーター、例えばASTやALTも軒並み上昇します。こういった数値は、みなさんの毎年の健康診断でも目にすることが多いかと思います。そうなんです、この研究のデザインは、お酒の飲みすぎによる、ヒトのアルコール性肝障害を意識したものなのです。肝臓がやられると、その先には赤血球のダメージも生じてくるところも、ヒトとラットのそれぞれの病態がとても似ているそうです。このとき、ピーカンの殻の抽出液をラットの給水瓶に混ぜておくと、なんとγ-GTPはじめ肝臓パラメーターの悪化が抑制され、さらに赤血球のダメージも食い止めることができました。ポリフェノールの多いお水は苦いんじゃないかな、と余計な心配をしてしまいますが、ラットは良く飲んだそうです。ヒトのアルコール性疾患での殻抽出物の検証はまだのようですが、少なくともアルコール性肝疾患の予防や治療の可能性があるだろうとLiz Girardi Müller先生らの研究チームは結論づけています。
産業廃棄物となるピーカンナッツの殻から、思いもよらぬ健康効果が期待できるという研究結果でした。最近注目されているSDGsの観点からもとても興味深い研究ですね。

次回からは「ナッツ類のエビデンス」をシリーズ紹介します。
それではまた。

続く

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